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2016-08-13

次世代自動車の本命は電気自動車(EV)か燃料電池車(FCV)か?

自動車が人類の歴史に登場したのは今から約250年前、最初の自動車は石炭を燃料とし蒸気で動くクルマでした。その後石油を燃料とする自動車が発明され、現代まで石油は主なエネルギー源として使われています。

蒸気自動車
蒸気自動車

これほどまで自動車が普及した理由は、石油が安価で効率的なエネルギー源であり、またエネルギーを効率的に動力に変換するエンジンをはじめとした技術の進歩であったことを否定する人はいないでしょう。

しかし、石油は有限でいつかはなくなるものですし、自動車が走るたびに、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)、健康被害の原因となっている窒素酸化物(NOx)が排出され、自動車の普及とともに、石油燃料のもたらすこれらの悪影響が無視できない規模となっている。というのは世界的な共通認識になっています。

そうしたことを受けて、自動車のエネルギー源を、石油から電気にしていこうというのが現在で、自動車の歴史の転換点を迎えているといえるでしょう。

HVからFCVへ
HVからFCVへ

ガソリン車からガソリンと電気を動力源とするハイブリッドカー、ハイブリッドカーにコンセントから充電できるようにしたプラグインハイブリッドカーが開発され、普及してきましたが、

ポストガソリン車、ポストハイブリッド車時代の次世代自動車の本命候補として現在開発がすすんでいるクルマが、電気をエネルギー源としてモーターで動く電気自動車(EV)と水素による発電装置の燃料電池を搭載し、車内で発電した電気をエネルギー源としてモーターで走る燃料電池車(FCV)です。

次世代自動車の本命は電気自動車(EV)でしょうか、燃料電池車(FCV)でしょうか。今回の記事では考えていきたいと思います。

電気自動車の仕組みと長所・短所

電気自動車の仕組みは簡単で、電気をエネルギー源としてモーターで動くというものです。エネルギー源としてガソリンの代わりに電気を車内に搭載した電池(バッテリー)に充電します。

電気は一般家庭のコンセントからも取得できるように、ガソリンスタンドのような特殊な施設を必用とせず、どこからでも取得できるというメリットがあります。

電気自動車の歴史は意外と古く、実は1930年代にはすでに開発されていました。そして1970年代の石油ショック時にも再び脚光を浴びたのですが、電池の性能が低くて実用性がないと判断され、実用化には至らなかったのです。

ところが、近年になりリチウムイオン電池が開発され、急速に電池の性能が高まったために電気自動車の実用性が高まり、2009年には三菱自動車からI-Miev、2010年には日産からリーフが発売され、普通乗用車として普及してきています。現在、電気自動車はそれほどめずらしいものでもなくなってきました。

日本だけでなく、アメリカでは電気自動車専門の自動車メーカー、テスラモーターズが市場で一定の存在感を持つほどの規模になっていますし、欧州の自動車メーカーも電気自動車の開発に力を入れています。

三菱自動車i-miev
三菱自動車i-miev

電気自動車の長所は、どこでもエネルギー源である電気が取得できることに加え、その走行コストの安さがあげられます。

電気自動車の走行コストは、1kmあたり2円から3円程度とされています。

ガソリン1リッター150円、燃費20km/lという自動車で考えてみますと、このガソリン車の走行コストは1kmあたり7.5円ということになりますので、電気自動車はガソリン車の半分以下の走行コストになります。

また、排気ガスを排出しませんので、二酸化炭素も窒素酸化物NOxも排出しません。

一方、電気自動車には大きな短所があります。1回の充電で走行できる航続距離が短く、そして充電時間が長くかかることです。このため、電気自動車の普及がすすまないと言われています。

現在、最も売れている電気自動車が日産のリーフですが、1回の充電で228kmの航続距離です。一般的なガソリン車は1回の給油で航続距離500kmですので、電気自動車はガソリン車の半分以下となります。電気自動車でヒーターやエアコンを使うと、さらに航続距離が短くなります。

電気自動車の1回の充電時間は、電気スタンドの高速充電器でも満タンにするのに30分以上かかります。増えてきてはいますが、まだまだガソリンスタンドよりも電気スタンドは少ないですから、充電のために待たされることが多く、いらいらするという経験をする人は少なくありません。

この電気自動車の欠点を克服したクルマとして最近登場したのが、燃料電池車(FCV)です。

燃料電池車(FCV)の仕組み

トヨタ自動車は、燃料電池車(FCV)、ミライを2014年に発表、販売を開始しました。

ミライの2015年の販売台数は日本で500台、アメリカで200台で、納車は2019年からとなっています。

燃料電池車(FCV)は、電気自動車の一種で、動力源は同じくモーターですが、電気自動車(EV)が電気をバッテリーに充電して走行するのに対し、燃料電池車(FCV)は、水素をクルマに充填して、車内で発電し、発電された電気が動力源となっているところが電気自動車(EV)と違うところです。

理科の授業で、水の電気分解を習ったことを思い出していただければと思いますが、水に電気を通すと、水素と酸素に分解されます。

燃料電池はこの逆で、水素と酸素を結合させると電気が発生する仕組みを応用して発電する装置です。

燃料電池の仕組み
燃料電池の仕組み

燃料電池で発電する際には、水素は酸素と結びついて水になるだけですから、有毒な二酸化炭素や窒素酸化物(NOx)を排出するということはありません。究極のエコカーと言われるゆえんです。

電気自動車(EV)では充電に時間がかかりますが、燃料電池車(FCV)では1回の水素の充填時間が3分間という短時間ですみ、1回の水素の充填での航続距離は650kmとなっています。

電気自動車(EV)の短所を克服しています。

燃料電池車(FCV)の開発を推進している自動車メーカーは、電気自動車のもつ航続距離の短さ・充電時間の長さという問題はバッテリーの性能が大幅に向上しない限り今後も解決が難しい問題で、これがネックとなって電気自動車は次世代自動車の本命とはならないという立場です。

日本政府も燃料電池車を軸に、社会全体のエネルギー源として水素をつかっていくという水素社会の実現を推進しています。

水素のもとである水はどこでも調達することができますので、原油のようなエネルギー源を外国に依存しなければならない日本にとって、自給できるというメリットは計り知れないからです。

燃料電池車は、トヨタだけでなく、他にはホンダが開発・販売し、BMWやGMといった海外の自動車メーカーも日本の自動車メーカーと提携しています。

ホンダの燃料電池車(FCV)、「CLARITY FUEL CELL」

水素は夢のエネルギー❓

燃料電池車(FCV)の水素がエネルギー源として注目される理由は、海外からの輸入に依存しなくてもよく日本でも生産できるということもありますが、製油所や石油化学工場で石油や化学品の生産過程で、副生成物として生産されるということもあります。

使い道がない水素は捨てられているものもあり、捨てられるものを利用できるのだから、非常に無駄のない夢のエネルギーだ。と考えている人もいます。

実際には、製油所や石油化学工場で副生成物として生産された水素は、そのまま再利用されており、他の用途に利用される水素は生産量の1%程度にすぎず、燃料電池車(FCV)が広く普及したら、現在の生産量ではとても賄えない水準となっています。

水素エネルギーとは?
水素エネルギーとは?

もうひとつ、水素がすぐれたエネルギー源として注目されている理由は、余剰電力を利用して、エネルギー源として貯蔵できる可能性があることです。

現在の電力供給の仕組み上、電力需要に完全一致するように電力を供給しているということはありません。常にそのときどきの電力の需要を上回るように、電力が余分に供給されています。

そのため、無駄な電力が生産されている瞬間があるのですが、この余剰電力を利用して、水を電気分解し水素に変換して液体水素などにしておけば、エネルギーを無駄にせず「貯蔵」できることになります。

エネルギー、特に電力がさまざまな活動のボトルネックとなることは、わたしたちは東日本大震災以降よく経験してきたことですが、こうした問題も解消できる有力な手段となることから、水素社会の実現は国家的な願いとも言えるのです。

そのためには、燃料電池車(FCV)の普及が必要と考えられています。

燃料電池車(FCV)はガラパゴスになる

FCVミライの駆動部分
FCVミライの駆動部分

しかし、燃料電池車(FCV)は問題点をいくつも指摘されており、そのため燃料電池車(FCV)が電気自動車(EV)にとってかわって次世代自動車として普及することはない。というのが大半の見方となっています。

技術はすぐれているものの、世界的には広く普及せずに日本だけで発展するモノや技術を「ガラパゴス現象」と言ったりしますが、燃料電池車(FCV)もガラパゴス化するのではないか。と指摘されています。

ガラパゴス諸島には特異進化した動物がたくさんいます。
ガラパゴス諸島には特異進化した動物がたくさんいます。

ガソリン車にはガソリンスタンドをはじめとした供給網がすでに整備されており、電気自動車も発電所や送電網をはじめとした電気の供給網がすでに出来上がっていますが、燃料電池車の動力源である水素については、供給網をこれから整備していかなければなりません。このことが燃料電池車(FCV)の最大の問題と認識されています。

これは非常に高コストで、例えば、水素ステーションをひとつ建設すれば、その建設コストは、ガソリンスタンドの5倍の金額がかかると言われています。

ガソリンスタンドをひとつ作るのに1億円と言われていますが、水素ステーションは4億円から5億円かかり、そして運用コストは年間4000万円かかるという試算もあります。

これは、水素の性質が原因です。水素は爆発しやすく爆発時の爆発力は強力なため取り扱いは非常に注意が必要ですし、また、金属の腐食性が強いので、水素を貯蔵したり供給するパイプラインも専用のものでなくてはなりません。

燃料電池車(FCV)の普及のためには、こうした、コストのかかる水素供給インフラをこれから作っていかなければなりません。

水素供給網のようなインフラの整備状況と燃料電池車(FCV)の普及度合いは、にわとりと卵のような関係にあり、インフラの整備がすすまなければ、燃料電池車(FCV)を購入したいという人は少ないままでしょうし、燃料電池車(FCV)の利用者がインフラコストを主に負担することになりますので、普及がすすまないとインフラの整備もすすみにくい。ということになります。

トヨタの燃料電池車(FCV)ミライは現在は1台700万円します。政府は普及させるために1台あたり200万円の補助金を出すとしていますが、それでも500万円程度となり、決して安価な自動車とは言えないでしょう。

手の届きやすい価格となり、広く普及するためには一定の生産台数、販売台数が必要になりますが、日本の新車市場は年々縮小しており、販売台数と生産台数が増えるためには海外市場でもよく売れることが不可欠となります。

特に世界最大の自動車市場となった中国、世界有数の自動車市場のアメリカ、そして今後モータリゼーションが本格化する新興国での普及がカギとなるでしょう。

次世代の自動車技術開発競争で主導権をとりたい日本の自動車メーカー、そして、エネルギーを自国で供給できるようにしたい。という日本政府にとっては官民ともに燃料電池車の普及を推進したいというニーズがあり、日本政府と自動車会社や関連業界は協力して水素ステーションをはじめとした水素供給網の整備をすすめていくとのことですが、果たして海外諸国には燃料自動車を普及させたいといううニーズがあるのでしょうか❓

中国は国策として電気自動車の開発、販売をすすめており、BYDをはじめ国策会社とも言える有力な電気自動車メーカーが多く存在します。中国は自動車技術で先行する欧米諸国や日本に電気自動車でおいつきたいと考えているのですから、そのライバルとなる燃料電池車(FCV)の普及を積極的にすすめるとは考えにくいです。

中国の電気自動車メーカーBYD、電気自動車バスを世界最大の規模で生産しています。

アメリカは、シェールガスの発見を機に世界有数の石油生産国となったので当面はガソリン車を中心にしたいでしょうし、一方で、カリフォルニア州をはじめ環境規制が非常に厳しく、このため電気自動車の普及が急速にすすんでいます。

ベンチャー企業だった電気自動車のテスラモーターズも今や有力な自動車メーカーとして数えられるほどになりましたし、グーグルやアップルといったIT業界の巨人たちは自動車、それも電気自動車の開発に注力していると報道されています。また、電気自動車の充電ステーションの整備も非常にすすんでいます。

ちなみに、テスラモーターズのCEO、イーロンマスク氏は、燃料電池車(FCV)のことをばかげた自動車("Fuel Cell Vehicle is Fool cell Vehicle")と酷評し、やはりインフラ整備がネックとなってアメリカでは普及しないだろうと見通しを出しています。商売敵になるので無理もないのでしょうが。。

このようなアメリカの状況では、新たなインフラの整備が必要な燃料自動車(FCV)が電気自動車にとって代わるというのは考えにくいでしょう。

そして新興国ですが、資本の蓄積が十分ではない国が多く、電力供給網の整備も不十分という国も少なくありません。高いコストのかかる水素供給網が電力よりも優先的に整備されるとはやはり考えにくいです。

このように燃料電池車(FCV)が次世代自動車の本命になるのは難しい理由は、海外での普及が難しいことに加えて、電気自動車(EV)の性能向上という要因も無視できません。

電気自動車(EV)のネックとなっている充電時間の長さと航続距離の短さですが、これはバッテリーの性能が向上すれば改善される可能性が高いです。

日本政府は、燃料電池の普及、水素社会の実現を目指す一方で、現状の車載用リチウムイオン電池の技術革新も推進しており、2030年以降には、現在の7倍の蓄電性能、そしてコストは10分の1以下という目標をたてて、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を中心に研究しており、その実現可能性は決して低くないとのことです。

出典:http://toyokeizai.net/articles/-/12890?page=2

次世代車載用電池のロードマップ
次世代車載用電池のロードマップ

そうなれば、航続距離と充電時間の問題も解消され、さらに、電気自動車(EV)の原材料価格の大半を占める電池のコストも下がるわけですから、クルマの値段も下がり、一層普及がすすむでしょう。

海外でもすでに普及が本格化してきており、最大の短所である航続距離や充電時間が今後解決されていくのであれば、燃料電池車(FCV)に比べてインフラも整っている電気自動車(EV)が次世代自動車として広く普及していくと考えるのが自然でしょう。

と燃料電池車(FCV)が普及して次世代自動車の本命となるのは難しいのではないか。と述べてきましたが、石油が本当に枯渇してしまったときに、水素はひとつの重要なエネルギー源になる可能性を秘めていますし、さまざまな技術の発達で、燃料電池車(FCV)のもつ弱点が克服されるかもしれません。

例えば、日産はバイオエタノールを発電のための原料とする燃料電池車を発表しています。この燃料電池車はSOFC(個体酸化物型燃料電池車)で最大のメリットは、水素ステーションのような莫大なお金のかかるインフラを整備しなくていいことです。

さらに発電のための原料であるバイオエタノールはトウモロコシ、サトウキビ、そして大豆からも採取できますので、資源の枯渇を心配する必要がありません。

ネックとしては、発電時に二酸化炭素を発生させてしまうことです。とはいえ、燃料電池車の実用可能性を高めるひとつの選択肢でしょう。

長期的に見れば、いずれ石油や石炭といった化石燃料に依存する社会は限界になるでしょう。それは原油の枯渇といった形かもしれませんし、化石燃料の使用に伴う環境悪化の限界という形かもしれません。

そのときに直面するまでに、ガソリンとは異なったエネルギー源で走る自動車を作っておくことは人類の課題のひとつと言えるでしょう。

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